遠くなった面影と消えかかった声が、
脳裏から消えない夜の目印だ。
誰にも今更に、助けられやしない。
僕がここで声を上げたとして。
色彩の剥げ落ちた、あの額縁の片隅に、
一人朽ち果てていく君の面影をしまい込んで。
言葉の重さを知るたびに、形を失う幸せ。
大人になれないままのあの日の君から続く時間が、
落とした影を辿る指のように。世界をかたどる指のように。
そっと君が差し出す時間に触れた。
無くした日々を追うように。
思い込んでいた。
こんな時間にもいつか、終わりが来るはずだと。
一人きりで歩いていくことを、忌み嫌うわけではないと。
部屋の隅で埃被った、君の声を覚えている。
壊れかけたものを置き去りにして、形を失う時間を、
いつまでも手の中に握りしめて。
燃える砂の中へ。
冷えた雨の中へ。
景色は今日も変わっていく。
僕は知っている。自分の居る意味を。
君を追いかけて、ここで眠るよ。
月日が過ぎて、声が途切れて。
あの約束、薄れてゆくけれど。
別れの理由を探す夜は、重ねた声ごと、かき消した。
空を見ていた君も、あの夜の中。
落とした影を辿る指のように、何一つ言わないでそこにある、
そっと君が差しだす時間に触れた。
無くした日々を背にして。